投稿日:2023年5月30日
当該のAさんは海外でも高い人気を誇るRPGゲームシリーズを手掛ける大手S社へ2019年11月に契約社員として入社し、ゲーム企画などに携わっていました。入社時から4回の契約更新があり、2022年11月、上司に呼び出され、雇止めの通告を受けました。理由は「ゲームに向いていない」、「求めるスキルに達していない」というものでした。雇止めに納得できない意思を伝えるも、執拗な退職勧奨が続き、青年ユニオンへ加入しました。
組合は雇い止め撤回とパワーハラスメントへの謝罪を求め、団体交渉を申し入れしました。会社は雇止めの理由として、「報告書がコピペである」、「誤字脱字が多い」、「ルールを無視する」等を主張してきました。しかし会社の主張は、Aさんの主張と相違する部分が多くみられました。主に部としての方向性が曖昧な状態で行われる上司とのコミュニケーション齟齬が大きい印象を受け、特定の上司から聞き取った偏りのある情報である可能性が非常に高く、客観的・合理的な根拠に欠けるものでした。
パワー・ハラスメントについて、上司W氏から「AさんてADHD気味だよね」などと事実に基づかない病気があると決めつける発言があったこと、当発言によってAさんは甚大な精神的苦痛を受け、以後の社内におけるコミュニケーションおよび業務のパフォーマンスに支障を与えたことを追及しました。上司W氏が発言を認めている録音があることを示すと、会社側は概ねの事実を認め、団体交渉の場で謝罪しています。また上司W氏は、もう一度チャンスがほしいと言ったAさんに対し、過大な課題を出して、成果物が一定のレベルを超えていたら雇い止めを再考すると約束していました。しかし課題の進捗報告のために行われる週3回の面談のなかで、上司W氏はAさんに対して、「新しい仕事を探してほしい」、「足りない能力を伝えるために課題を出した」と、退職勧奨と能力不足であることを言われ続けました。つまり雇い止めを撤回する気はなく、単に能力不足を知らしめるために課題を出したということです。こちらは過大な要求のパワー・ハラスメントに当たるとして謝罪を求めましたが、会社側は認めませんでした。上司Wのパワー・ハラスメントに続き、あろうことか上司I氏も、Aさんに対しセクシュアル・ハラスメントを行っていたことが組合の調査によって判明します。内容は社内SNSのやり取りのなかで上司I氏がAさんに対し、「ゆず湯に入ってるAさんの写真付きなら、明日でw(原文まま)」と投稿しており、発言は身もふたもない明白な女性差別からくるセクシュアル・ハラスメントです。セクシュアル・ハラスメントについても証拠を提示し、会社は事実を認め、謝罪しました。
会社は契約社員の雇用契約にすべて5年上限の条項を設けており、Aさんも同様でした。組合はこの5年上限は、無期転換逃れになると指摘しました。これに対して「当社では無期雇用という制度はない」、「無期転換逃れではない」と回答しています。これらの回答からは、契約社員の無期転換制度や、有期雇用の不安さを根本的に理解できていない様子がうかがえ、事実上契約社員の無期転換を逃れ、契約社員を5年内に雇い止めにし、雇用調整弁として扱っている非正規差別の現状が明らかになりました。
パワー・ハラスメント、セクシュアル・ハラスメントを行った正社員は守られ、被害を受けた非正規社員は雇い止めにされる。5年上限で無期雇用への転換も望めない。この状況がいかに不条理であるか、Aさんは最後に自身の意見を会社にぶつけました。会社はハラスメントを行った上司2名への処分と、契約社員の待遇改善、ハラスメント再発防止に努める旨を約束し、和解解決に至りましたことを報告します。
和解締結:2023年4月
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