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大勝軒TOKYOとの裁判における残業代の論点について

更新日:3月28日

 昨年、11月30日に、つけ麺・ラーメン店の「お茶の水、大勝軒」(以下、「お茶の水店」 現在は閉店中)、「大塚 大勝軒」(以下、「大塚店」)、「お茶の水、大勝軒BRANCHING」、「大勝軒next 勝浦ビーチ店」、「山ノ内 大勝軒」を運営する「株式会社大勝軒TOKYO」に対して、組合員が裁判を提訴しました。社長の田内川真介氏は、創業者のレシピを引き継いだと宣伝し、メディアにも多く露出しています。


 この裁判は、社長によるパワハラ行為についての損害賠償請求と、未払い残業代の請求が主な論点となっています。現在第2回期日を終え、2022年4月15日(金)の午前10時から第3回期日を控えています。被告からの答弁書とその証拠が提出され、それに対して原告が反論するところです。


 今回は、残業代請求の点について、原告側の主張と、同社による反論の内容をご紹介します。


1.原告の主張―杜撰な労務管理と長時間労働―

 原告は、2018年3月から2021年1月まで、正規社員として働いていました。当初は、同社が運営する「お茶の水、大勝軒」(現在は閉店中)で就労し、その後、の店長を任されました。

 就業規則上、同社では所定労働時間が7時間30分と定められています。しかし、実際の労働時間は「お茶の水、大勝軒」で10:00~23:30(営業時間11:00~22:00)、大塚店で10:00~23:00(営業時間11:00~22:00)と長時間に及んでいました。2020年4月に時短要請が出てからは、労働時間は短縮されたものの、10:00~21:30と残業は変わらず生じていました。さらに月に約2回のペースで午前4時ほどまでスープづくりに従事する日もありました。

 このように長時間労働が常態化しているにもかかわらず、原告の月給は、2018年度は月19万5000円、2019年度以降は月20万5000円で固定されていました。残業代や割増賃金は支払われていません。さらに、使用者は従業員の労働時間について適正管理把握義務(労基法108条、労基法規則54条1項5項)、各従業員の労働時間数を記入した賃金台帳を5年間保存する義務(労基法109条)があるにもかかわらず、従業員らの時間外労働について全く把握していませんでした。

 したがって、原告は、労基法114条に基づき、時間外・深夜早朝手当の未払金約300万円を請求しています。



2.被告の反論―無謀な管理監督者性の主張―

 これに対して、被告の主な反論は次のようなものです。


「原告はいわゆる管理監督者であった」


 一般に、ある労働者が「管理監督者」、すなわち、「監督若しくは管理の地位にある者」(労基法41条2項)と認められれば、会社は当該労働者について労働時間や休日に関する法律を守る必要がありません。被告は、原告がこの「管理監督者」に該当すると主張していますが、根拠は以下です。


・「原告は数年後に独立して自分が事業主になることを想定してその修行のために被告から大塚店の管理を任されていた」

・「原告の勤務時間についてタイムカードによる時間管理はされていなかったところ、これは勤務時間について原告に大幅な裁量があることの裏返しでもあった」

・「大塚店で用いる食材仕入れなどは、原告は、自己の判断で行っていた」

・「他のスタッフのシフト管理なども原告の判断が加味されていた」

・「原告の賃金は特別高給というわけではないが、原告は若年であり、他の従業員とのバランスを考慮する必要があったし、近い将来独立するための修業期間という位置づけでもあったため、決して著しく定額であったということはない」


 これらの点から、原告は残業代を支払わなくてよい存在なのだと、被告は主張しているのです。


3.原告のさらなる反論

 これらの被告の主張に対して、原告は真っ向から反論しています。


 まず、ある労働者が労基法41条2号に定める管理監督者か否かという判断は、厳格かつ制限的に行われます。もし管理監督者となれば、1日8時間・週40時間を超えても残業代を支払わず無限に就労させられてしまうため、当然です。判例によれば、①実質的に経営者と一体的な立場にあると認めるに足る重要な職務と責任、権限の有無、②労働時間の決定に厳格な制限・規制を受けない立場にあるかどうか、③一般の従業員と比較してその地位と権限に相応しい賃金上の待遇の有無を、総合的に考慮した上で判断されます。この判断基準に照らして、原告は管理監督者とすることは到底言えません。


 ①について

 被告は「大塚店で用いる食材仕入れなどは、原告は、自己の判断で行っていた」ことや、「他のスタッフのシフト管理なども原告の判断が加味されていた」こを主張しています。

しかし、原告は、食材や調味料の在庫が尽きそうになったら補充のために発注していただけであり、あらかじめ決められた食材を毎回同じ分量だけ注文していたにすぎず、仕入れに原告独自の判断が介在する余地など全くありませんでした。また、他のスタッフの各店舗への配置は被告代表者が独断で決めており、原告の判断が加味されることなどありません。この点で、被告の主張するような事実は存在しないと反論しています。原告の業務内容は、注文を受け、ラーメンを提供することと、それに伴う種々の準備作業でしかなく、レシピもあらかじめ田内川社長が決めており、変更など認められていません。

したがって、原告は被告代表者と一体的な立場にあると認めるに足る重要な職務と責任、権限を有していたとは言えない。


②について

 被告は「原告の勤務時間についてタイムカードによる時間管理はされていなかったところ、これは勤務時間について原告に大幅な裁量があることの裏返しでもあった」などと主張しています。しかし、勤務時間管理がなされていないのは原告以外も同様であり、タイムカードがないから管理監督者だと推認することはできず、むしろこれは被告の労働時間管理が極めて杜撰なことを示しています。

 また、原告はほぼ固定的に朝10時から夜23時までの勤務を続けていました(例外的により長くなることはあった)。店舗の営業時間や原告しかできない作業があることを考慮すれば、これと異なる時間に勤務することは、店舗営業上はあり得ません。

 つまり、原告には自らの勤務時間の決定につき裁量などまったくなかったということです。


③について

 被告は「原告の賃金は特別高給というわけではないが、原告は若年であり、他の従業員とのバランスを考慮する必要があったし、近い将来独立するための修業期間という位置づけでもあったため、決して著しく定額であったということはない」と主張しています。

 しかし、若年であることは管理監督者性の判断において何の意味もありません。また、修行期間であったという事実もなく、百歩譲って修行期間であったとしても、それはむしろ職務上の権限や責任が制限されていて、管理監督者性を否定するような事実です。

 もちろん、原告の賃金は、管理監督者の地位に見合った待遇とは到底言えません。


 以上のように、どの角度から見ても原告は管理監督者には当たりません。被告の主張は、言うに事欠いた苦し紛れの主張であり、到底受け入れられるものではありません。

 労働時間に関する被告の主張を紹介し反論しましたが、被告は原告の労働時間がもっと短かった、という主張もしています。従業員の陳述書を提出し、原告は仕事をさぼっていたかのように主張していますが、少しでも支払う金額を下げたいという意図が見えます。


 最後に、飲食業界には、経営者と一体的といえるほどの職務、権限、責任がないにもかかわらず、「店長」という名前を与えられただけで管理監督者扱いされてしまう従業員が多くいます。以前、「名ばかり管理職」が社会問題化しましたが、飲食店ユニオンにはいまだに同様の相談が寄せられています。

 今後も業界改善の一環として、会社が残業代を支払わずに長時間労働を強いる管理監督者性問題の是正に取り組んでいきます。


飲食店ユニオン

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