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東横インは、パート労働者に十分な休業補償を行え!―労基法の欠陥を象徴する東横イン争議―

 東横インで働くパート労働者のAさんは新型コロナ禍で大幅なシフトカットを受け、会社から休業手当を支払われましたが、その休業手当の金額は非常に低い水準であり、生活困難に陥りました。Aさんは首都圏青年ユニオンに加入し、東横インに対して通常賃金10割の休業補償を行うよう要求しました。この争議は、労基法の休業手当の定めの不十分さを象徴するものでもあり、首都圏青年ユニオンは東横インとの争議と併せて、労基法改正も要求していきます。


◆大幅なシフトカットと不十分すぎる休業手当

 東横インで清掃やベッドメイキングなどの業務を行っていたパート労働者のAさんは、新型コロナ禍に入った2020年4月以降大幅なシフトカットを受けました。コロナ前は1日5時間・週4日働いていましたが、2020年4月以降は、週0~2日しか働けない状態になりました。

 「雇用調整助成金」が拡充され、大企業である東横インも、休業手当の75%の助成金を国から受け取れるようになっておりました。ほとんど企業負担なしに休業手当を支払えますので、青年ユニオンでは、様々な企業に通常給与100%の休業手当を支払うよう求め、それを実現してきました。

 しかし東横インは、2020年4 月以降の休業について、平均賃金8割の休業手当しか支払いませんでした。完全休業の場合、通常給与10割であれば、1日6000円が支払われますが、平均賃金8割ですと、1日3104円となります。大幅な減収です。

 また2021年1月に入ると雇用調整助成金がさらに拡充され、大企業でも休業手当の100%の助成金が国から支払われるようになりました。東横インからすれば、ますます休業手当を支払いやすくなったはずです。しかし東横インは、休業手当をますます支払いやすくなったにもかかわらず、休業手当の支払い率を「平均賃金8割」から「平均賃金6割」に引き下げ、Aさんの受け取る休業手当は1日当たり2328円になりました。


◆「休業の10割の手当っていうのが、全然、意味が分からない」

 生活困難・生活不安を抱えた首都圏青年ユニオンはAさんの相談を受け、通常給与100%の賃金を支払うよう求め団体交渉を申し入れました。しかし東横インは団体交渉でも譲りません。それだけでなく、法律を全く理解していない発言を行っています。

 団体交渉で青年ユニオンから、「平均賃金の6割、8割と言ったらものすごく低い」「なかなか生活するのは難しい」と訴えると、「あなたたちがおっしゃっている給料の10割の手当っていうのが、全然、意味が分からない。給料を10割保障したら誰が働いてくれるんですか?」「働かなくても10割貰えるなら働かないですよね」などと発言しました。

 東横インは、まるで、Aさんが働くつもりがないにもかかわらず10割の賃金を請求しているかのように発言していますが、当然、Aさんは働けるのであれば従前どおり働ける準備があります。「働くつもりはないけれど10割の賃金をよこせ」と言っているわけではありません。東横インの上記のような発言を受けて、ユニオンからは、「働きたかったら働けるんですか?働かせてくださいよ」と訴えると、東横インは、「いやいや、そうじゃないですけど」と言葉を濁しました。

 民法536条2項によれば、事業主都合での休業については休業分の賃金の全額を請求する権利が労働者にあることになります。つまり、全く働かなかったとしても、それが事業主の都合で働けなくなっている場合には、通常賃金10割の賃金を会社は支払わなければならないのです。東横インの上記の発言は、この法律を全く理解していないことになります。ちなみにAさんが働くホテルは緊急事態宣言下でも都の休業要請の対象になっておらず、休業は会社の判断によってなされたと発言しております。会社の判断によってなされた休業であるならば、通常給与10割の賃金を支払わなければなりません。

 大企業である東横インは、このコロナ禍において、非正規労働者の生活を守る責任があるはずです。そして雇用調整助成金が拡充されているいま、それは不可能ではありません。首都圏青年ユニオンは、引き続き、東横インに対して通常給与10割の賃金支払いを求めていきます。


◆労働基準法の大きな欠陥を象徴する東横イン争議

 労働基準法第26条は、事業主都合の休業が発生した場合、事業主が「平均賃金6割」以上の休業手当を支払わなければならないと定めています。東横インの休業手当の支払いも、この労基法第26条を踏まえた対応であり、労基法26条違反とは言えません。しかし、ここで定められる「平均賃金6割」というのは非常に低く、労働者の生活保障としては非常に不十分な水準となっています。そのために、Aさんのように、労基法違反とは言えないが非常に生活が困難になるという状況が生じてしまうのです。

 なぜ労基法の休業手当の規定が不十分なのか、以下やや込み入りますが説明したいと思います。

 まず「平均賃金」は、次の2つの計算方法のうち、いずれか高い方を取ることになっています。


①直近3か月の給与の合計÷当該3か月の暦日数(労働日と休日すべて合わせた日数)

②直近3か月の給与の合計÷当該3か月の労働日数×0.6


 例えば月20日働き20万円稼いでいる場合、


①60万円÷90日=6667円

②60万円÷60日×0.6=6000円


 なので、①の6667円が平均賃金となります。月20日働き20万円の月収であれば、労働日1日当たりの賃金は1万円ですが、平均賃金は6667円になるのです。休業手当はもともと労働日であった日に支払われますので、例えば月20日働いていた人が1か月まるまる休業となった場合には20日分の休業手当が支払われますので、仮に「平均賃金10割」の休業手当が支払われたとしても、13万3340円となります。この段階で20万円の月収からかなりの減収となります。

 そして、労基法26条は、この「平均賃金」のさらに6割です。この場合、平均賃金6割の休業手当は、1日当たり4000円となります。そもそもの1日当たりの賃金と比べると、その4割しか支払われず、1か月(20日分)だと8万円になってしまいます。

 労基法26条は、労働者の生活を守るために存在する法律ですが、「平均賃金6割」では不十分すぎます。東横インの事例も、この労基法の不十分さを象徴する事例であると言えましょう。首都圏青年ユニオンは、「シフト制労働黒書」で、平均賃金の算定方法を定める労基法12条と労基法26条を改正し、事業主都合の休業について通常給与8割程度の休業手当支払いを事業主に義務付けるよう提案しています。


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